古舘佑太郎
高校時代に「The SALOVERS」のボーカルとしてバンド活動を開始。The SALOVERSの無期限活動休止からソロ活動を経て、現在のバンド「2(ツー)」と、一貫して疾走感溢れる楽曲と、シニカルな視点の歌詞で独特の世界観を描いてきた。そんな古舘の音と世界観を生み出す、バンド活動の原点に迫りたい。
Profile
2017年、バンド「2」(ツー)を結成し、ボーカル・ギターを担当。 音楽活動の一方、NHK連続ドラマ小説「ひよっこ」に出演、映画「いちごの唄」では主演を務め、役者としても活動。
ライブアーカイブ放送:※公開は終了しました。
プレゼント
初めてのライヴの地・下北沢で聞いた、古館佑太郎の音楽への初期衝動
Interview:田中 貴(サニーデイ・サービス) Text:油納将志 Photo:古溪一道
6月17日の「BACK TO STAGE ONLINE LIVE」に出演する古舘佑太郎の思い出の地は、初めてライヴを行った下北沢。音楽を始めた意外なきっかけ、バンドへの思いなどを、同じく下北沢にも長く縁のあるサニーデイ・サービス 田中 貴が聞いていく。
初ライヴ、音楽活動の原点は、好きなあの娘に振り向いてほしくて――。
田中「曽我部(恵一)とはイベントなど一緒になったことが多いと思うけど、ぼくとは初めてですね。よろしくお願いします。デビューはいつ頃?」
古舘「初めまして。こちらこそ、よろしくお願いします。メジャー・デビューしたのが2012年です。曽我部恵一BANDのCDを買ったのが高校生の頃でした」
田中「今回選んでもらった下北沢のライヴハウス『MOSAiC』ですが、ここが最初にライヴした場所ですか?」
古舘「最初の頃の拠点は学芸大学の『MAPLEHOUSE』というライヴハウスだったんですが、最初にステージに立たせてもらったのはここ『MOSAiC』なんです。もちろんワンマンなんかじゃなく、イベントのいちバンドとして出演させてもらって。当時は平仮名表記の「さらばあず」でやっていて、店頭にある出演告知の黒板に書いてあったバンド名を見て、「さまぁ~ず」みたいだとからかわれて、お笑いやるの? とか言われたのをおぼえていますね。そのときは2曲だけオリジナルで、あとはくるりのカヴァーでした」
田中「ライヴをしたのが高校生の頃だと、楽器を始めたのは?」
古舘「中学2、3年の頃ですね。中学の文化祭でライヴをやりました。しかし、ここは変わってないですね。でも、入り口の匂いが変わりました。お香が変わったのかな。時たま、店の前を通ったときも記憶のある匂いが漂ってきて懐かしさをおぼえたりもしたんですが、初めてのライヴからもう10数年経ってしまいました」
田中「ステージが高いのは珍しいですよね」
古舘「そうなんですよ。当時はめっちゃ広いハコだなという印象でしたね、高校生からしたら」
田中「その頃、バンドを始めた時は音楽でやっていこうという気持ちはあった?」
古舘「バンドはお姉ちゃんの友達の影響で始めたんです。かっこいいなって。高校1年生の秋にここでやらせてもらったんですが、その年の春に中学までは共学だったのが、高校から男女別になったんです。その女子部だった子に夏前に失恋をして。それからはただのストーカーでしたね(笑)。毎日手紙を書いては渡して。あまりにしつこくやりすぎて、本当にやめてと言われました。もう無理です、って。3回くらい告白し直して全部振られて、これはもうだめだ、思いも伝えちゃだめなんだということになったわけです」
田中「いやー、情熱的だね(笑)」
古舘「そこでめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど、毎夜、月を見ながら村上春樹を読むみたいなモードに突入していって。どうしたらいいのかと考えるうちに、音楽だったら気持ちを好き勝手書いて歌う分には怒られないし、音楽でかっこよく見せられたらもう一回振り向いてくれるんじゃないかという一心で、書いたこともなかった曲と歌詞を作ったんです。このライヴの時も誰かに頼み込んでその娘を連れてきてもらって」
田中「おおぉー!」
古舘「そこで自分のオリジナルとくるりのカヴァーをやったわけですが、なんとかその子が振り向いてほしいという理由だけでステージに立ったという」
田中「で、結果は……?」
古舘「全然ダメでした(笑)。すでに彼氏がいたらしく。ちょっと気持ち悪い、とも思われてたみたいで」
田中「勝手に歌うというよりも完全に目の前にいるもんね(笑)」
古舘「さすがに目の前で歌われたら気持ち悪かったみたいです(笑)。でも、憧れだけのままで曲を作っていたら、たぶん続いてなかったと思います。メールとか手紙でコミュニケーションが取れる関係性だったら、わざわざ音楽をやる必要もなかったわけで。今も音楽を続けられている理由はそこにあったのかもしれませんね」
かつての下北沢、ライヴシーンと今のライヴシーンへの想い
田中「くるりのカヴァーをしてたわけですが、当時はこういう音楽が好きというのがあった?」
古舘「思春期特有のモードだったので、今思うと青臭くて尖っていて、誰も知らなさそうなCDをレンタルしてきたり、背伸びして洋楽を聴いたり。その中でもくるりや曽我部恵一BANDはずっと聴いてましたね」
田中「下北沢にもよく来ていた?」
古舘「ちょくちょく来てましたね。最初のイメージはライヴハウスがいっぱいあって、でも敷居が高いという。当時はまだオーディションがあって、ライヴハウスの夜の部に出るには昼の部で結果を残してからという時代でしたが、ちょうどそれが変わるタイミングでもあったんですよね。ぼくらがライヴハウスに出演をお願いに行っても、気軽に受けてくれたり。そこでちょっと勘違いして。俺らすごいんじゃないかって」
田中「そういう時代があったよね、俺たちも屋根裏のオーディション落ちたまま(笑)。そういえば今回、『N6 sports』で音楽を聴きながら、下北沢の街を歩いてくれたそうだけど音質や使い心地はどうだった?」
古舘「自分が使っていたワイヤレスイヤホンは遮音性が低かったんですけど、今回使わせてもらって遮音性って外の雑音をカットするだけかと思っていたら音全体にも良い影響を与えるということがわかりました。逆にイヤーピースを変えて遮音を控えめにすると低音のニュアンスも変わってきたり、音楽のタイプによってモードを切り替えるのもアリかなと思います。スピーカーの鳴りに近いナチュラルな音も気に入りました。ランニングもしているので、この安定した装着性もいいですね」
田中「一方で、今はライヴを思うようにできない状況が続いているけれど、古舘くんもかなり影響があったんじゃない?」
古舘「そうですね。でも、ライヴのやり方も変わるタイミングになったんじゃないかと思っています。今までのやり方で続けてきたんですが、どこか性に合わないところもあって。コロナ禍で大変ではあるんですが、ライヴに対してのスタンスを考え直すきっかけにもなりましたね。誰かにあまり頼れない、だからこそ自分の力が鍛えられたというか。ライヴハウス自体も大変な時期が続いていましたので、昨年行ったオンライン・ライヴもライヴハウスと一緒になってやってみたり。いつか全力でライヴできるような日が戻ってきたときに、その場所がなくなってしまうのは困るので、引き続き何かできたらいいなと思っています」
田中「バンドでのライヴは休止せざるを得なかった?」
古舘「いえ、やりました。オンラインと、リアルなライヴも。リアルな方は1日に3回ワンマン公演をしました。どうしても人数制限が必要だけど、3回やれば1.5回分くらいのお客さんが来てくれるんじゃないかと思って。それで1日で58曲歌ったんですよ(笑)」
田中「(爆笑)」
古舘「まあ、コロナじゃなかったら絶対やってなかったでしょうね。その時にスタッフの人に『古くんはずっともがいて、ミスって、転がってたけど、ようやく時代が古くんに合ってきたんじゃないか』と言われたんです。平時よりも緊急時の方が力を発揮できるということなのかわかりませんが、チャレンジは続けていきたいですね」
田中「では最後に17日のライヴに向けての意気込みを教えてください。弾き語りはよくやってるんだよね?」
古舘「そうですね。弾き語りの場合はバンドの2(ツー)とは別に考えていて、自分の好きな曲をその都度でやってます。バンドだと自分の気分だけじゃ決められませんが、弾き語りの場合はライヴの途中でセットリストを変更したり、その時の気分がむき出しになっていることが多い」
田中「弾き語りでは、昔の曲、The SALOVERSの曲も演奏したりすることもあるの? バンドっていいことがあって解散するものじゃないわけだからわだかまりもあるかもしれないけれど、そのあたりはもう吹っ切れている?」
古舘「解散して1年くらいは振り返りもできなかったですね。忘れてしまいたいというくらいに。でも、自分の信念の話になってくるんですけど、もう一度スタートを切ったときにようやくThe SALOVERSのことを肯定できるようになった。そこからはThe SALOVERSの曲も歌えるようになっていったんです。前を向いて打ち込めているからこそ、過去は消し去るものじゃなく感謝に近いものという気持ちがあったし、曲自体は以前よりもキラキラとして見えるようになりましたね」
■古舘さんの思い出の場所
Live House MOSAiC(http://mu-seum.co.jp/)
〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-2-14モアイ茶沢1F.B1
■試聴製品
NUARL N6 Sports
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